新型コロナウイルス感染症対応に関する声明

2020年4月25日
特定非営利活動法人 全国要約筆記問題研究会

特定非営利活動法人 全国要約筆記問題研究会は、聴覚障害者をはじめ全ての人が音声情報から取り残されない社会を目指す支援者が集まる団体です。
当会の名称にある「要約筆記」は1960年代に誕生しました。聴覚障害者のすべてが手話を利用していると考えられがちですが、主なコミュニケーション手段として文字を利用する人も多くいます。そうした人への支援方法の1つが「要約筆記」です。要約筆記者は難聴者や中途失聴者が情報入手やコミュニケーションを行う場で、音声情報を文字にして通訳します。内容が明確に理解でき、双方向に即時性のある参加ができるよう支援を行うものです。

新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、日本でも感染拡大をおさえるため国から緊急事態宣言が出されました。今では対象地域が全国に広げられ、不要不急の外出自粛要請が繰り返されています。
感染を防ぐ観点から、要約筆記者による支援は制限される毎日です。難聴者・中途失聴者が仲間と集い、情報交換をする場もありません。
現在の苦境を乗り切るには、誰もが等しく身の安全や生活保障他、必要な情報を入手できることが重要です。難聴者・中途失聴者が全ての情報にアクセスできるよう、私たちは次の配慮を求めます。

1.政府や自治体が行う会見への字幕付与を徹底してください。
日々刻々と変化する状況に対応するため、首相や知事、市長が記者会見を頻繁に行い、メディアがリアルタイムに動画で配信しています。最近は手話通訳が付く動画配信が多くなりました。聞こえない人や聞こえにくい人を一括りにして「聴覚障害者」と言いますが、コミュニケーション手段は様々です。難聴者・中途失聴者の多くは字幕を利用しています。手話だけでなく字幕を付けてください。
現在では音声認識技術を利用し字幕が入ることがあります。リアルタイムでの誤変換はやむを得ないとしても、アーカイブ版として公開されるものには正しい字幕を迅速に付与してください。時を失した情報は役に立ちません。できる限り聞こえる人と同じタイミングで正しい情報が入手できるようにしてください。

2.学習支援動画に字幕を付けてください。
政府の要請により1人1人が自宅での生活を余儀なくされています。激変した上に先が見えない生活でストレスも多い中、1人1人が生活の質を保つことが大切です。各地で教育機関が休校となり、オンライン授業など遠隔で学習を進めるところもあります。難聴者・中途失聴者は字幕がないと音声部分の内容が理解できず学習が進められません。学習の機会を保障するためにも字幕をつけてください。

3.テレビ放映・インターネットによる放映・配信コンテンツに字幕を付けてください。
新型コロナウイルスの問題が起きる前、要約筆記の付く講演会や行事には多くの難聴者・中途失聴者が参加していました。三密を防ぐ理由から講演会や行事は中止となり、難聴者・中途失聴者も自宅で生活しています。聞こえる人は自宅での生活を楽しむため動画を利用します。同じように楽しみたくても難聴者・中途失聴者は字幕がなければ機会が奪われます。結果的に、聞こえないために生活の質が落ちます。心のケアが大切と言われ始めている今、誰もが同じように楽しみ、笑顔になれるよう字幕をつけてください。

4.要約筆記者の感染防止に努めてください。
要約筆記は難聴者・中途失聴者の社会生活に必要な情報保障のひとつです。通院や職業安定所など、必要不可欠な外出には要約筆記者が同行しています。リスクはありますが、人権擁護の観点から必要な支援に他なりません。こうした場面でソーシャルディスタンスを取るのは難しいですが、マスク・消毒用アルコールなどの提供、換気や検温など極力、感染防止ができるよう配慮をお願いします。

5.難聴者・中途失聴者への対応を工夫してください。
難聴者・中途失聴者の多くは相手の口の動きや表情を見ながらコミュニケーションを図っています。マスク着用は感染防止には欠かせませんが、同時にコミュニケーションを妨げるバリアにもなり得ます。要約筆記者が同行できない場面では、以下の方法で配慮をお願いします。
①話す内容を難聴者・中途失聴者に書いて見せてください。
 紙でもホワイトボードでも構いません。事前に作成した紙資料も有効です。
 書いたものを渡すと、難聴者・中途失聴者は後で確認できるので安心です。
②近くにパソコンがあれば、入力して画面を見せてください。
③音声認識アプリを利用し、文字にして見せてください。
 音声認識技術は大きく進歩しています。それでも日本語の難しさや同音異義語の多さから誤変換もあります。推測できないような誤変換の場合は、言い直す、あるいは他の言葉に変えるなどで会話を進めてください。

終わりに
障害者差別解消法など国内法が整備され障害者権利条約が批准され、情報通信などのアクセシビリティの重要性と、誰もが情報を得る権利を持っていることが謡われています。政府および地方自治体の音声による発信全てに字幕を提供すること、また、民間事業者の字幕付与の配慮が進むよう行政から積極的な働きかけ等をお願いします。

当会には難聴者・中途失聴者のそばに寄り添い、日常の様々な不利益を共に嘆き、乗り越えるために活動を重ねてきた歴史があります。その歴史を力にしながら、私たちは自らの専門性を今の社会にどう生かしていくか、喫緊の危機に私たちができることは何かを考え、行動に移すことが重要だと思います。
難聴者・中途失聴者の皆さんの「聞こえ」の状況、それがもたらす心理的な状況は知られていません。これらの啓発に加え、要約筆記者が現場に立てなくともICT活用で可能な取組も視野に入れ、各地の聴覚障害者情報提供施設や字幕付与活動をする団体と連携して難聴者・中途失聴者支援に取り組んでまいります。